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2005年10月30日

『それは「ポン」から始まった』読了して思ったコト(1)

先週から読み始めたアーケード・ビデオゲームの通史書『それは「ポン」から始まった』を、ようやく読了。細かい事実関係について「?」な箇所が無いコトもないのだが、それらはまったくの些末事。アーケード・ビデオゲーム史の流れを過たずに捉えた、例のない良書だという評価に変わりはない。

既存の「ゲーム史本」的なモノは大概、市場に出たゲーム製品群そのものに流れを見出そうとしていたのだが(やむを得ないが)、それだけでは読み取れない「ゲーム業界のダイナミズム」といったモノが、本書には息づいているように思える。業界に身を置いていた鶴見だからこそ感じる、というワケではない。なぜならこれは、ビデオゲームという新鉱脈に群がった「ゴールドラッシュ」の記録なのだから。金の生産量推移統計よりも、49ers達の一攫千金物語の方が面白いに決まっている。荒くれ者どもが集う場所。喧嘩上等、諍いなんぞは日常茶飯。著作権問題ひとつとっても、黎明期は一種の無法地帯だったコトがよく解るし、まさに訴訟上等、諍いなんぞは日常茶飯。だからこそ生まれた野放図なパワーがゲーム表現を豊かにし、業界全体を押し上げ…そして各社とも、今や口を拭って「アレはなかったコトに」と云っているのがよく分かる(笑

それはともかく。

歴史書は、過去を懐かしむ為のモノではなく、未来への道標とすべきものであろう。そういう意味からも、本書はゲーム業界のあらゆる人間に読んで欲しいと思う。鶴見のような「生涯ペーペー」の人間ばかりでなく、むしろエグゼクティヴ系の方にこそ読んでもらいたい(小口っつぁんとか)。


【ワーナー傘下でのアタリ社の栄光と挫折】の章によれば、アタリ(旧)の家庭用コンソール「VCS」は、当初は売れずに在庫を抱えて困っていたのだが、スペースインベーダーが移植されヒットしたコトによって在庫処分が出来、なおかつ、パックマンが移植されたコトによって一転して驚異的なブームとなったのだという。これが、業務用ゲームから家庭用への移植の嚆矢となり(それまでは無かったのだ!)、以後、PlayStation時代までは通用した、ヒットを作るための方程式の一つとなったのは、周知の通り。

つまり。我々が常識だと思っているコトですら、ア・プリオリに存在していたワケでなく、ゲーム史上、誰かが「発明・発見」したコトなのだ(しかもそれほど古いコトではない)。前回のエントリーで「断片的な知識のそれぞれが、ビデオゲームの歴史にルーツを持って対応・符号しているのを、本書では新たに発見させてくれる」と書いたのは、まさにこういった類の話のコトで、ゲーム業界で行われている「慣習的な選択」は、大抵、過去にそのルーツを見出すコトが出来るのだ(と思う)。

んでもって、VCSの話には続きがある。アタリは業務用でヒットを連発し、VCSも業務用の移植で軌道に乗ったのにもかかわらず、親会社のワーナーは業務用部門のクリエイティヴィティを評価せず(むしろないがしろにし)、家庭用「ビジネス」にばかり注力したのだという。直接的な原因ではないにせよ、そうした方針が、いわゆるアタリショックの遠因になったと云っていいだろう。

鶴見はココに、昨今の業務用ゲームの衰退および、巷間で呟かれる「ゲームがつまらなくなったよね論」のルーツまで見出してしまうのだが…暴論だろうか?

鶴見が云いたいのは、ひとつには、アタリの事例はまるで、セガが家庭用コンソール事業に注力するあまり業績を悪化させた経緯とソックリだというコトであり、いまひとつは「業務用を軽視してビデオゲームにエポックが生まれるのか?」というコトだ。

鶴見がセガに入社した頃はセガも業績が良く、研究開発費も潤沢だった。ペーペーで無駄飯喰らいの我々などは「給料を貰って修行させてもらっていた」ような側面があったと思う(ここで水口あたりはうなずくべきだな)。そう、いわゆる「大鳥居ゲーム専門学校」というヤツだ。以前の嘘六百でも書いたが、セガが行った開発者への投資は、ことセガに留まらず、大量の開発者を手放す羽目になった後に、ゲーム業界全体の開発力を大きく底上げしたと断言して良かろう(ちなみにアタリも、ゲーム業界の黎明期を創り出した才能溢れるスタッフ「アタリアン」達を手放し、散らばったアタリアン達は米ゲーム業界の隆盛に一役買ったという。やはりソックリだ)。

しかし、家庭用プラットフォーム戦争に費やされた金は違う。広告業界や秋元康なんぞを潤し、湯川専務の知名度は上げたかもしれないが、(それらも含めて)大半は消耗戦の為に費やされた。ゲームとして結実したモノも多いとはいえ、掛けられた金額に比べればあまりにも少ない。もちろんその間、業務用の研究開発費(の割合)は抑えられ、業務用部署のタレントはシェンムー(これも消耗戦だな)に徴兵された。

もちろんこちらも、話はセガ一社に留まらない。セガは業務用ゲーム機開発の最大手であり、セガが業務用の研究開発費を抑えるというコトは、業界全体で業務用ゲーム開発に費やされる金額自体が低くなるコトを意味する。その影響は大きい。村上龍の「あの金で何が買えるか」ではないが、セガがもし、業務用に変わらぬ(割合の)投資を続けていたなら、業務用ゲームそのものがここまで衰退していなかったのではないか。今とは違ったゲームセンターが隆盛を誇っていたのではないか。過去にUFOキャッチャーが、あるいはプリクラが、ゲームセンターの風景を一変させたように。

NAOMI基板の話を持ち出す人間もいるだろう。「業務用の開発費は減ってなんかいませんでしたよ。共用により合理化しただけです」と。そこで二つめの、鶴見が十年来抱いている疑問が首をもたげるのだ――「業務用を軽視してビデオゲームにエポックが生まれるのか?」と。

(続く)

【追記】

ところで、「それポン」を読み了えるのに1週間もかかったのは、読みたかった本を数冊、並行して読んでいたためだ。ちなみに並行して読んでいた(いる)のは、『パックマンのゲーム学入門』(岩谷徹)『涼しい脳味噌』(養老孟司)『冒険手帳』(谷口尚規/石川球太)『近代 日本語の思想』(柳父章)『パチンコ「30兆円の闇」』(溝口敦)『火星年代記』(R Bradbury)、等々。『テヅカ・イズ・デッド』(伊藤剛)はまだ読み始めていない。

カテゴリー: 新・嘘六百

投稿者 tsurumy : 2005年10月30日 17:50

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コメント

冒険手帳…  古っ。
しかし復刊していたとは知りませんでした。
ちなみに僕は石川球太の「遊びのガキ大将」をネタ元にしてたりします。w

投稿者 KQZ : 2005年10月31日 10:57

ああ、「遊びのガキ大将」も懐かしいですなあ。21世紀ブックスのシリーズには「おもちゃの作り方」「空き缶おもちゃの作り方」など、さんざんっぱらお世話になりましたよ。

杉並区の図書館目録を検索したら、冒険手帳だけは残ってたんですが、その他は全滅です。もう一度読みたいし、手作りのおもちゃを作りたいものです。

投稿者 tsurumy : 2005年10月31日 15:48

おお、「空き缶…」も持ってます。
今はスチール缶がなくなっちゃったんで作れないものも沢山あるでしょうけどね。
表紙カバーが破けているだけで中は読めます。
今度ひげにでも持ってきますわ。

投稿者 KQZ : 2005年11月01日 10:42

うぉぉおおお! ぜひ!

投稿者 tsurumy : 2005年11月01日 10:45