2002年11月22日

嘘六百・第13回

前回に引き続き、マーク・サーニーの話。
彼はデザイナー企画としてもプログラマーとしてもAクラス級の腕を持っていますが、彼の凄いところはそれよりなにより、ゲーム制作で最も大切な能力が抜きん出て優れているところです。いったい何でしょう? それはズバリ、「問題解決能力」です。

 ゲーム制作は労働集約産業なので、才能(タレント)を投入しなければ成立しません。そのプロジェクトに投入する才能の総量(近似値として「人件費(コスト)」に換算可)が、品質の最大値を決めるのは当然の事。しかし一方でそれは、ポテンシャルとしての「目標最大値」に過ぎず、最終形の製品が必ずその質に達するとは限りません。むしろ、プロジェクトを進めていくと、ゲームをつまらなくさせようとする、有象無象の「見えざる手」の力によって、最大値に達しない事の方が圧倒的に多いのです。
そんなゲームをつまらなくさせる逆風を、友人の海道賢仁氏が「クソゲー力(ぢから)」と命名したのは世間によく知られるところですが、あたかも重力のように偏在するクソゲー力に逆らい、ゲームを高く高く飛翔させるためには、絶え間ない「問題解決」こそが重要なのです。


あれは、「クラッシュ・バンディクー2」を作っていた頃だったでしょうか。当時の私は、日本で行ったユーザーテストの集計表データを睨みつつ、総計100時間以上にも及ぶプレイビデオをチェックして、日本ユーザー固有の問題点を抽出しようと躍起になっていました。総合プロデューサー&ゲームデザイナーであるマークの指示によって、です。特に手間がかかったのは、白地図の上にプレイヤーが特異な行動を示した点(「死んだ場所」等)を全てプロットし、その分布が偏りを示す場所を拾い上げる作業でした。その「砂漠の砂粒を数えるような作業」には、正直うんざり。しかし、さらにうんざりなのが、そのデータを基にマークと議論する事だったのです。

 日本時間で夜中の2時は、アメリカの出勤時間。前日に送ったデータに目を通したマークから電話が入り、壮絶な議論のゴングが(ベルが)鳴ります。
やれ日本ユーザーはこの仕掛け(チャレンジ)の認知が弱いだの、このトラップはアンフェアだの、こう変更しよう、いやそれは修正のコストが見合わない! 本当にデータは正しいのか? 苦労して作ったデータだから間違いはない!
――いつも意見は衝突し、喧嘩スレスレになるのが常でした。いや、たいていはマジ喧嘩になり、「マークのガチャ切り」で終わったものです。信じられますか、国際電話で、仕事の電話で、怒って「もういい、ガチャン!」なんて!

 しかし、そこからが凡人とは違います。ガチャ切りから30分後きっかりに、決まってマークから再び電話があるのです。
「さっきの件だけど…」より優れた解決案を携えて、電話を掛けてくるのです…必ず! これまた、信じられますか? どんな難問でも、30分きっかりで最高の解決案を見つけだす、マークの問題解決能力!

 ――その結果どんなゲームが完成したかは、皆様が御存知の通り。

教訓:ガチャっと切って、ピカっと閃け!

これが「天才」というものなんですなあ。

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2002年11月11日

ポール・マッカートニー

行ってきましたよ、ポール・マッカートニー@東京ドーム。
ホントはムチャクチャ忙しい真っ最中だったんだけど、まさかこれを見逃す訳にはいかないでしょう。

――行って良かった。つうか、もしこれに行っていなかったらと思うと、ガクガクブルブルもんですよ。俺の人生の色んな時点で触れてきた物が、実は巨大な存在の断片だったという感じ。ある時触れた象の鼻。ある時触れた象の尻。そして今日初めて、象を見たって訳です。うーん、良い喩えではないけど、まあそんなトコかな。

それにしても、ね。当日はSgt. Pepper's Lonely Hearts Club BandのTシャツを着ていったんだけど、ポールが「ビートルズ以来、数十年ぶりに演奏します」と言って唄った「Getting Better」とか「She's Leaving Home」とか、今日ほどこのTシャツを着ているコトを誇りに思った日はなかったよ!

カテゴリー: 六百式見聞録

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2002年11月08日

嘘六百・第12回

 なんと前号(10/11発売号)に、私がプロデュースしている「ラチェット&クランク」の記事が、早くも載ってましたねえ。言ってくれれば合わせて書いたのに!
 ――でも、10月某日に雑誌社へ資料を出したのが、11日発売号にもう載ってるとは…(速いよ編ウメちゃん!)。

 まあ私は「パブリシティ権」を持たされていない雇われの身なので、この話はこれ以上ツッコミません。その代わり、今回の発表に合わせて、ここ数年ずっと一緒に仕事をしている、盟友マーク・サーニーについて書くことにしましょう。

 ところで、マークの事は御存知ですよね? 若干13歳ながら飛び級で大学に入り、在学中にアタリで「マーブル・マッドネス」等をほぼ独りで作り上げた後、セガで「ソニック2」、UIS(ユニバーサル・インタラクティヴ・スタジオ)で「クラッシュ・バンディクー」等を立ち上げた、ゲームデザイナーにしてA級プログラマー。「天才」の名を恣(ほしいまま)にしている、USゲーム業界キーマンの1人です。

 私はセガAM在籍当時、旧本社ビル7Fの、鈴木久司本部長(当時)の席の近くに座っていました。なので、鈴木さんを訪問する方々は必ず、私の席の横を通っていったものです。アイルトン・セナにアラン・プロスト、マイケル・ジャクソンに石井竜也、セガが華やかなりし頃は、それはもう、様々な有名人・お偉いさん達が私の身体の上を傍らを通り過ぎて行きました。そんな中に、鈴木久司さんと仲の良いマークも居たのです。

 私は、当時としては珍しい重度のスパイダーマン・マニアで、アメリカから輸入した「the Amazing Spider-Man」最新号を、いつも机に飾るほどでした。それに目を留めたのが、通りすがりのマーク。彼はX-MENマニアで、まあ共通の話題=アメコミをきっかけに、徐々に打ち解けていったという次第。で、私は彼を知れば知るほど、彼の勉強っぷりに舌を巻くようになりました。
彼は生粋のアメリカ人なのですが、日本語が、見る見る間に――それこそ、週単位で上達していたのです! 常に単語カードを持ち歩き、「今週は○○語覚える」「この半年で◎◎語覚えた」という、非常にシステマチックな勉強方法を採り、しかも、覚えた事は忘れない。彼が日本を離れる頃には、ヘタな日本人よりも日本語達者、そして日本文化通になっていたのです。

 例えば、こんな話があります。マークと飲んでいた時(彼曰く「のみゅにけーしょん」――オヤジギャグだ――)、ふとした拍子に「漢字の書き順」についての議論が始まりました。いわば「日米漢字書き順対決」。私も日本語には些か自信があるので、これは母国語人(ネイティヴ)として負けられません。しかし、普通は有り得んでしょう、「凸」や「凹」の書き順で争うアメリカ人なんて(笑)。
――まあ結果は私の勝ちだったのですが、といってマークが負けた訳ではなく、彼は完璧でした。ただ残念なことに――なんと彼の教科書自体が誤っていたのです! そんな細かい誤植まで、何故覚えてますかッ!?

教訓:努力する天才、これ最強。


 ――ゲームネタへ移る前に字数が尽きてしまったので、次回に続きます。

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