2003年02月28日
嘘六百・第19回/「GDC」(4)
とある海外の番組制作会社から、日本と欧米のゲーム市場の違いについて取材を受ける事になりました。
具体的には、大ヒットした「Grand Theft Auto」シリーズやFPSのように、欧米では驚異的なセールスを記録しているにもかかわらず日本では全く売れていない製品/ジャンルがあるのは何故か、といった内容です。ちょうどGDCで喋る内容と被るので、今回はそれでいきましょう。
日本では、First Person Shooter(主観視点シューティング)、所謂「FPS」の市場が、欧米に比べて極端に小さい事が知られています。有名な例では、N64「ゴールデンアイ」は日本と欧米では売り上げが十倍以上も違いますし、「Doom」以降の名だたるシリーズですら、どれも日本ではマイナー洋ゲー扱いです(制作者の方いらっしゃいましたらゴメンナサイ…)。
一般にその理由としては、FPSが生まれたPCゲームの市場規模が、日本においてはコンソールゲーム市場に影響を及ぼせるほど大きくない事とか、あるいは「Motion Sickness(ゲーム酔い)」等が挙げられていますが、私はそこに、もう一つの理由、というか仮説を追加したいと思います。
それは――「日本人は3D Free Roaming Exploration(3次元空間を自由に探検する行為)を好きではないのかもしれない」という説です。
あれは今から5年前。私が、Insomniac Gamesと一緒に「スパイロ・ザ・ドラゴン」というゲームを制作していた頃、私達の頭を悩ませていたのが、まさに「ゲーム酔い」です。私達はゲームを制作する上で、ユーザーテストからのフィードバックを何よりも重視するのですが、スパイロを日米欧同時にテストすると、日本でのみ必ず、かなりの割合の人間がめまい眩暈や吐き気を訴えていたのです。
――いやもう大変でした。原因を調べようにも参考になる文献は見つからず、人種的生理的な違いに拠るものかと思いきや、アメリカに転勤した日本人家庭の子は酔わなかったりと、現象に法則性すら観られない。私達は、原因の解明を諦め、カメラの改良に集中する事にしました。偶々、私がゲーム酔いしやすい体質だったので、自らを実験台とするのは無論の事、「人体実験は止めてください」と非難されながらも試作カメラのテストを敢行したり、酔ったプレイヤーのビデオを数十時間、私自身も吐き気を堪えて精査したり…。
最終的に私達は、「日本人の90%以上が酔わないカメラ」を完成させ、ソフトをリリースしたのですが――今から考えると、一つの問題に囚われるあまり、その奥に潜む真の問題に気付かなかったのかもしれません。
スパイロは「ルート探しの楽しみ」を企図したゲームなのに、発売後の意見では、なんと「ルート探しが面倒」「マップで指示してほしい」という意見が非常に多かったのです。それも日本でだけ! 欧米では、そのゲーム性が受け入れられ、大ヒットしたのですが、日本でのセールスは惨憺たるものでした。
聴衆の皆さん。私は同様の例をいくつも挙げる事ができます。トゥームしかり、ジャックンしかり、あのMGSですら、そうなのです。FPSが受け入れられなくても仕方ないと思いませんか?
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2003年02月14日
嘘六百・第18回/「GDC」(3)
今回もGDCで講演する内容の準備稿です。
(詳細はこちら→www.gdconf.com)
前回の続きは、久夛良木社長に対する非難が含まれていたために自主的に没としたので(謎)、今回は少し話題を変えます。
ここ数年、世界のゲーム業界を俯瞰している身からすると、どうも日本のゲーム制作のレベル自体が凋落傾向にあるのではないか、という危惧を感じています。特にプログラミングおよびプロジェクトマネジメントの分野において、です。
こう云うと日本の方々はショックを受けるかもしれませんが、聴衆の皆さんに日本人は少ないようなので、正直に云ってみました(笑)。
日本のレベルが下がっているというよりもむしろ、日本以外の制作会社、つまり聴衆の皆さんのスキルレベルが上昇していると云った方が正確なんですが、いずれにせよ相対的に日本が凋落傾向にある事には変わりはありません。日本以外では、GDCのような公開の場や、またGame Developer Magazine等によって、制作技術の情報交換が頻繁に行われていますが、日本では未だに徒弟制度によるノウハウ伝授が一般的なのが、その理由の一つと云えるでしょう。
セガ等も分社化によって技術交流におけるスケールメリットを手放してしまい、それを補おうと他社と合従連衡を行っているほどです。トップガンチーム(優れたチーム)は多いのですが、それが市場規模に見合う量のゲームを供給しているかというと、かなり疑問なのが現状です。
さて、そのトップガンチームが何をしているかというと、「お得意様商売」で手一杯なんですね。
例えば、友人のマーク・サーニーが先日、日本市場をこう評しました――「日本で売れてるのは、RPGとガンダムだけデスネ」。ここで云う「ガンダム」とは、広い意味での「版権/ブランド/続編物」だろうと私は解釈していますが、まさに指摘通り。昨年度の日本市場での売り上げトップ10を眺めれば判りますが、続編/キャラ物以外は1本たりともランクインしていません。ここ2年程の間に、日本市場は急速に保守化してしまったと言えるでしょう。そして私は、こうした保守性が、日本市場の縮小と連動しているのではないかと診ています。
古くはシューティング、近くは対戦格闘ジャンル等において、お得意様に向けた続編商売を続けていく内に、縮小再生産から凋落に陥ってしまった例は枚挙にいとまがありません。日本市場はまさに、危機の淵に立っているのです。
つまり――そうです、皆さんにとっては、今が日本市場に食い込むチャンスなんですよ!
ゲームのファンサイトや雑誌のレビュー等を読むと、依然として新規性の高い斬新なゲームを望む声が大きい。そりゃそうです、「新しい体験」こそがゲームの肝。でもね、日本の制作会社には残念な事に、新しいチャレンジに費やす体力がありません。あったとしても、一線級のチームは割けません。日本を視野に入れたワールドワイド・タイトルを目指す意味が、そこにあるんです!
(俺は売国奴か…と思いつつ)以下次号!
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