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2004年03月19日

嘘六百・第46回/「新ハード」(完)

「ユビキタス」という言葉がある。ラテン語の「いたる所に遍在する」という言葉を語源に持つ単語だが、21世紀に入ってからコンピュータ用語としても頻繁に使われるようになったので、読者の皆さんもどこかで目にしている事だろう。

まあ、そろそろ「マルチメディア」とか「バーチャルリアリティ」と同様に死語の仲間入りをしそうではあるのだが、いやいや、なかなかどうしてこの言葉、前回書いた「エンターテインメントコンテンツが、ネットワークに溶けてゆく」という最近の状況を、上手く説明してくれるのだ。

遍在――即ち、コンピュータなりネットワークなりが、「空気の様に、衣服の様に」あらゆる場所に存在し、いつでもどこからでもアクセスできる、というような意味だ。

ユビキタス・コンピューティングの提唱者は、これを「第3の波」と位置付けている。第1の波は、大型コンピュータを複数人で共用する事。第2の波は、一人が1台ずつのコンピュータを占有する事。そして第3の波は、複数台の携帯機や据え置き機などの連携し合ったコンピュータ群に、一個人が取り囲まれる環境を指す。

これ、何かに似ていないだろうか? ビデオゲームの歴史・プレイスタイルの変遷に似ているのだ。

過去、ビデオゲームはゲームセンターで遊ぶ物であり、ゲーム機を複数人が共用して遊ぶのが普通だった(第1の波)。それが、ファミコンの誕生と共に、ゲームは一家に1台、一人に1台となり(第2の波)、そして今や、ゲーム業界も第3の波を迎えようとしている。

据え置き機がインターネットに繋がるのは、もはや当然であり、携帯機もワイヤレスネットワークを使って、そこに連動する――「ユビキタス・ゲーミング」時代の到来だ。

だって、そりゃそりゃそうだろう。ビデオゲームもまたコンピュータの申し子なのだから、コンピュータ世界の潮流と歩を一にするのは、実に自然な成り行きなのだ。そして、そこから生まれる新しい波は、ユーザーを再度ゲーム習慣に引き戻し、ゲーム消費も活性化、小売店もメーカーもユーザーも万々歳。おお、何とも良い事ずくめじゃあないか我が軍は!


――個人的には、この状況を「やっとここまで来たか」という気持ちで眺めていたりもする。

過去、ゲーム機がインターネットに繋がり始めた頃、話題はMMORPG一色だった。私も一時期、MMORPGに魅力を感じ、下調べを進めていた時期がある。だが、思考実験の果てに明らかになったのは、MMORPGが、プレイヤーをゲーム機の前に縛り付けるタイプのゲームであり、「遍在」という明らかな未来から逆行しているという事だった。

そして、ゲーム業界がMMORPGに拘っている隙間に入り込んだのは、そう、携帯電話のゲームアプリ。貧弱なインターフェースに、薄いゲーム性――でも、時代の流れに合っていたからこそ、勢力を急激に伸ばしたのは、ご存知の通り。

しかし私は予見する。今年から続々と現れる新ハードが、再び未来を目指し、携帯電話をも飲み込み、復権を果たす事を!

今年のE3が楽しみですなあ!

2月から3月にわたって、ドリマガがいつもと違う週刊ペースで発売されたもんだから、今回のシリーズ「新ハード」は無茶苦茶大変だったよ、もう。ちょうど『JAK2』の公式サイトにも毎週コラムを書かなければない事もあったから、俺の本業はライターかっ!?ってな勢いで、毎週シコシコ文章書いてたっけ。

正直、「嘘六百」は苦労の多い仕事だ。

何が大変と云って、規定字数内に収めるのがいちばん大変だ。下手したら、内容を書いた後、倍ぐらいの時間をかけて削ってたりする。かかる時には、丸一日費やしてたりもするワケだ。半ページのコラムなのに。時給換算で云ったら吉野家の深夜バイトと、どっこいどっこいかも?

そして、「妄想篇」と銘打っている割には、案外と気を使って書いてたりもする。なにせ、鶴見六百という名前を出しているワケだから、この手の「業界観測」的な題材の場合、業界の人間に笑われるような、トンデモな内容は書けないのだ(あ、笑われるではなく「笑わせる」は可…笑)。

そんな苦労の多い「嘘六百」だが、とはいえ、定期的にこうした文章を書くのは、思考トレーニングとして大いに役立っている。それは間違いない。ゲーム制作に集中していると、業界を俯瞰する視点が持てなくなりがちだが、この半ページがあるが故に、俺は俺として、一本スジを通して自分を見失わずに業界で生きていけるのであるなあ、という感じか。それは言い過ぎか(笑)。

なんにせよ、〆切の強制力はありがたいコトです。

投稿者 tsurumy : 2004年03月19日 06:00

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